400年前、ある平和な町を襲った魔女狩りの波。そのなかで一人の少女が焼かれた。街の誰もがそれを見ていた。そして誰もがその少女の死を望んだ。だが、彼女が消えた夜、街は炎に包まれる。消すこともできず、弱まることも知らないその紅蓮は街の全てを包み込み、すべての人々の未来をも焼き尽くしていった。 青い青い空。少女は目覚めた。遠い遠い声。魔物を殺せ、少女はその声を聞いた。永い永い命。そして、少女は、魔女になった。森の中、聖は立っていた。魔界よりさまよい出た魔物たちを狩る「退魔師」である彼の前には一人の少女が立っている。そして周囲に四散した醜悪な魔物達の肉片と体液。死の身体をもち、はるか昔から世界中の魔を狩りつづけてきた異端の退魔師アポステイト。聖は今、退魔師としての修行をしつつ、彼女とともに暮らしている。さつきとともに瀕死の重傷を負った彼が、死をも覚悟した時、そこに彼女は現れた。凍りつくような眼差しで聖を一瞥すると瞬時に魔物を消し去るステイト。 それをきっかけにしてステイトは代々退魔師として、その世界の中で名を馳せてきた当麻家に居候することとなった。それから今日まで、聖とともに日々魔物を狩りつづけている。寡黙なところも、冷徹なところも昔から変らない。しかし、聖は感じていた。当麻家の家族やさつき達との暮らしの中で、彼女が少しずつ変ってきていることを。その日の退魔を終え、聖とステイトは暗く曇った空の下を歩いていた。遠くを見つめるステイトが故郷のことをポツリと漏らす。 彼女が焼き殺された「はず」の街の空。今はもう無い呪われた故郷の空。だが、どんなに世界中を旅しても、彼女の中の空はそこしか無い。聖はその空から吹いてくる冷たい風の中、再びステイトとならんで静かに歩き出す。途中に出くわしたさつきとともに歩く家路の途中に、聖たちは寂れた空き地で足を止める。そこは初めて彼らが出会ったあの廃ビルがあった場所。決して美しくはないその思い出は、今の彼らの関係がはじまるきっかけだった。さつきが人一倍聖を心配するのもあの時の恐ろしさを知っているから。伝えたい言葉をこらえながら、さつきはただ、微笑んだ。当麻家ではいつものように妹のエリや祖父母、そして剣道教室の子供達が彼らを迎える。平和ないつも暮らしがそこにはあった。 だが、そんな日々が突如大きく揺らぐこととなる。魔物を狩った翌日の朝、その事件は起こっていた。テレビに映る無人の電車。そこにいたはずの乗客が全員、忽然と消え去ったのだった。映像を見て違和感を感じる聖。魔眼が疼く。かつて無い規模の魔の存在を感じた。そしてその日の午後、聖は病院の霊安室にいた。目の前にあるのは焼き殺された数体の乗客の骸。それを見た聖は驚愕し、震え、吐いた。彼女らは皆、生きたまま焼き殺されていた。まるで、そう ――――魔女狩りのように。
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