魔王ハダシュト崩御 その報せが魔界を覆ったとき、ある者は驚き、ある者は悲しみ、ある者は嘆き、ある者はほくそ笑んだ。 平和な御代であった。 先の大戦の傷跡を癒すような穏やかな統治を、多くの者が喜んで受け入れていた。 その魔王ハダシュトが後継者を定めず亡くなったのである。 いずれ十人の大魔族の間で権力闘争が始まることは火を見るより明らかであった。 乱世の気配が漂う中、志ある者は、これを機に立身出世を求めて大魔族に売り込み始める。 ファビオ青年もその中の一人であったのだが、しかし門前払いの日々が続く。 頭ではなく下半身でしかものを考えられない淫魔が役に立つはずがない。 淫魔が居るだけで風紀が乱れる。 淫魔を雇うなんて無駄だ。 そんな心ない言葉を浴びせられながら、流れ流れて、最後にたどり着いた。 大魔族『塊然』の元で、ようやく仕官を得ることに成功する。 自分を拾い上げてくれた主君に忠義を尽くすべく、ファビオは誓う。 己の全能力を懸けて、この人を必ず魔王にしてみせると。 魔界という火薬庫は、今まさに炸裂しようとしていた。 後世、魔王ハダシュトの時代をさして、火種が燻り続けた時代と称された所以である。
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